徳島線に乗った日
アン!アン!……
とても聞き馴染みがあるメロディのチャイムが走る列車のリズムに合わせて聴こえてくる。
阿波池田を出た古い気動車は、汽笛を鳴らしながらゆっくりと走り出した。
指定席は1号車の前より4列程で、その後ろは全て自由席。この車両に乗っているのは私だけだった。そのかわり、前の景色はとてもよく見える。
四国山間部の長閑な景色もあり、30分の列車の旅はとても快適に感じた。本を読み、前を見て、寝ていたら、駅に着いた。
穴吹駅で鈍行に乗り換える。
むかしながらの折戸のドアが開き。特急列車からホームにおりると、7月中旬の暑い日差しが降り注ぐ。昨日からの疲れも溜まっており、ホームの先に見える無人駅の古めかしい駅舎にすごく興味を惹かれるものの、無視して鈍行に飛び乗り、席を取る。
気動車は吉野川の河辺をゆったり進む。窓の外はなかなか風光明媚であり、吉野川ブルーラインの名前は伊達ではないな、とおもった。
さて、個人的な徳島線のイメージというのは、阿波池田から川沿いを徳島に行くローカル線、それ以上のものはなく。このローカル線が出てくる小説のイメージがとても強かった。その小説に確か失恋した2人の女の子が徳島線にのって感傷に浸る旅をする描写があったと思ったが、ふと実際に触れてみたくて検索をかけてみることにした。
リンクを押して貰えばわかるかと思うが、この様な説明文になっている。
超美人でゴーマンな女ともだち音生と、彼女に言いなりな私。音生に引きずられる様に、大阪→トルコ→四国→石垣島と……
あれ、そんな話だったっけか。と思いますます記憶との違いが気になってダウンロード。
記憶とは違っていたけれど、柴崎さんの若者の恋愛小説感が溢れていてとても好きであっという間に読み干してしまった。ちなみにわたしは「次の街までー」とその文庫版に入っている「everybody loves sunshine」と、「ショートカット」や「私のいなかった街で」が好きで。最近は追えていないけれども。もし機会があればお読みいただければ思う。
司馬遼太郎の様なセンスがないくせに司馬遼太郎節みたいな話の飛ばし方をしてしまった。汽車はゆっくり進んでいくが、いつの間にか吉野川からは離れてしまったのか全然見えなくなってしまった。青空感傷ツアーにも「ブルーラインという列車の名前は、単に銀色の車体に水色のラインが描いてあるということみたいだった。」と書かれていて、むしろ私が乗ってる車両と言うか、最近の四国のキハは模様替えがなされて「ビリジアン」が多いし、完全に今だったらブルーラインのブルーは空の色かなぁ、って書かれるのかな、なんて。小説自体は徳島編は旅館での居候エピソードが9割で、徳島線の部分は6ページくらいしかなくて、記憶は本当に曖昧だと改めて気付かされるのがあった。
鈍行なので、少し進んで休んでの繰り返し。穴吹駅にしろ、交換で少し止まった学駅にしろ、駅舎の雰囲気がぱっと見良さそうなので機会があると駅巡り等をしても楽しいんじゃないかな?と思う。
なお、学駅での待ち合わせ停車前後にキハのトイレに行こうと思ったが閉鎖されていて使えなかったのが残念だった。
どこの駅だか忘れたが、学校帰りの時間に重なったのか学生軍団が乗り込んできて、シートを埋めていく。今乗っている車両は左半分がボックスシート、右半分がロングシートなので私の右一列は学生で占拠され、1人でボックスに座っててええのかしら?という気分にもなる。もちろん詰めて座りはするのだけども。
ワンマン列車の運転手は結構若い様に見えて、また地域密着なのか学生の顔を把握してるような気がした。この人はこのままずっとこの街に身を埋めて鉄道員として行きたいなのかしら、とか勝手に人の人生を想像しながら考え事をしていたらだんだんと街の密度が上がってきた。高徳線に合流したらもう次は徳島。
徳島は日本で唯一電化されていない県だと以前何かで聞いたことがあるけれど、徳島駅につく列車から見た操車場は気動車の天国だった。
岡山に新幹線が来て株を奪われる前の大昔には徳島や先ほどまで乗ってきた徳島本線は関西から高知を結ぶ動脈の一部だったようだ。
なお、それが尾を引いてるのか気持ちは関西人と揶揄されることも多いみたいで……
徳島線(佃〜徳島) 2023.07.20